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取手市の中3いじめ自殺事件の徹底分析と、中井久夫の孤立化・無力化・透明化三段階論を洗練させた新理論

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 取手市の中学校の集団生活で追い詰められ、いじめ殺された中島菜保子さんについて、渾身の力をこめて書こうと思った。だが、大量になされた報道は、ほとんどが学校と教委の不誠実な対応についてのものだった。加害者が追い詰め、被害者が追い詰められた集団生活についての詳しい経緯についての情報が欠けていた。
それで、もっぱら学校と教委についての分析を、下記『講談社現代ビジネス』の連載で行い、加害者が追い詰め、被害者が死にまで追い詰められた集団生活の分析については、今後詳細が公表されるのを待つことにした。

「日本の学校は地獄か…いじめ自殺で市教委がとった残酷すぎる言動」『講談社現代ビジネス』2017年8月20日
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52631
「『いじめ自殺』多発にもかかわらず、学校の有害性が問われない不可解」『講談社現代ビジネス』2017年8月21日
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52633
「いじめ自殺を隠蔽するとき、教育者が必ず口にする『異常な論理』」『講談社現代ビジネス』2017年11月2日
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53330
「人格を壊して遊ぶ…日本で『いじめ自殺』がなくならない根深い構造」『講談社現代ビジネス』2017年11月3日
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53333


 2019年、取手市ではなく茨城県が組織した、取手市立中学校の生徒の自殺事案に係る調査委員会による『調査報告書』が公表された。
https://www.pref.ibaraki.jp/kikaku/seisaku/tyosei/toridechosaiinkai.html

 これを受けて私は、主にこの調査報告書に依拠して、加害者が追い詰め、被害者が死にまで追い詰められた集団生活に関する分析を行った。
「学校における閉鎖空間の問題――取手市中3生徒自殺事件から普遍的な問題を考える」『季刊 教育法』No.202(エイデル研究所、2019年)https://www.eidell.co.jp/books/?p=10750

 ぜひ手に取りご笑覧いただきたい。

 ここで、中井久夫のいじめにおける「孤立化」「無力化」「透明化」三段階論をさらに洗練させた理論モデルを提出した。これは、女子のグループに比較的顕著にみられるタイプに対する強い説明力を有する理論モデルである。

 抜粋して紹介しよう(これはオリジナリティのある研究業績であり、使用するときは当該拙稿を入手し、通読のうえ、出典を明記して引用していただきたい)。

 

 徴兵制度、学校制度、全体主義的な社会体制、あるいはメンバーシップ型の就業慣行などの環境条件によっては、外部の社会と隔絶し、強力な別種の現実を成立させ、そのことで外部世界にいきわたる価値セットと対立する特殊な閉鎖的小社会が発生することがある。このような特殊な社会は、「何があたりまえの現実であるか」についての特殊領域をなしていると言うことができる。

 A子が死に追い詰められ、B子らのグループと担任が「補完し合いながら」(『報告書』)A子を死に追い詰めた学校の集団生活の現実も、そのようなタイプの小社会における現実構成のひとつである。

 それが学校の独特の集団生活でなく、通常の市民生活であれば、A子が死ぬことはありえなかった。B子らのグループと担任はA子を迫害したくてもできない。そもそも市民的な社会状態であれば、ここで生じたような迫害の筋書を、ありうる社会生活上の筋書として想起することもなかったはずである。

 A子は、自分を迫害する悪意の「友だち」との関係で苦しむとき、通常の市民状態での交友関係のように、より美しい関係を求めて「友だち」を変えるのではなく、自分自身を「友だち」に仲良くしてもらえるように変えようとする(内藤 2001, 2009, および『報告書』で拙著(内藤 2001)を引いた部分)。日記でも、迫害者たちとの人間関係が「上手くいくのかいかないのか」をひどく気にしている。

 クラスのなかで「ひとりぼっちになる」ということが、いわば人類学的ネイティヴがタブーに触れるとか、古代人が神から呪われるといった類のことを思わせるような、畏怖に満ちた強烈な存在論的恐怖になっている。だからA子は、別のクラスの幼なじみと仲良くするのはどうかと尋ねた母に、「同じクラスでないとだめなんだ」、「孤独は怖いんだよ」と泣いて訴え、その数時間後に自殺した。それは通常の市民生活を送る者の現実感覚からただちに理解するのがむずかしい、「何があたりまえの現実であるか」についての特殊領域に生じる恐怖である。中学校の集団生活はこのような別の世界になっており、その現実感覚のなかで子どもたちがいじめなどに苦しみ、ときに自殺する。

 このA子の「ひとりぼっちになる」存在論的恐怖は、B子らコントロールする側にとっては、激しく殴るとか、電気ショックを与えるとか、銃をつきつける等と同等の効果を有する権力源泉をもたらす。

 ここで、中井久夫の孤立化、無力化、透明化(透明化とは「徹底的に無力化させられた子が、仲よし、協力者、共犯者を演じさせられること、さらには進んで演じたくなるようにさせられること」)の段階論(中井 2018)の変種を考えることができる。少なくとも教科書的には、男子生徒によくある物理的暴力を主な権力源泉とするタイプでは、各段階がある程度重なりあいながら、大筋としては孤立化によって条件を整えてから、適時物理的暴力を用いて無力化し、最後に透明化でもって被害者の奴隷化が完成する。それに対し、女子によくある本件のようなケースでは、「ひとりぼっちにする」孤立化が、同時に恐怖による制圧でもあり、無力化を兼ねている。さらに、それに対する被害者による必死の「凍りついた仲よし」反応とそれを利用する加害者によるコミュニケーション操作は、透明化を実現する。つまり、孤立化、無力化、透明化が同時進行的に、早いペースで完成しがちである。実際、A子に対するいじめが始まっ

(当該拙稿https://www.eidell.co.jp/books/?p=10750
「学校における閉鎖空間の問題――取手市中3生徒自殺事件から普遍的な問題を考える――」『季刊 教育法』No.202:64ページ)

 

てから自殺に追い詰められるまでのペースは非常に速い。

 本件ではさらに、教員による迫害が重なっている。状況に応じて教員がとりうる選択肢のうち、A子に有利になるものと不利になるものが考えられる場合に、不利なものが選択されることが不自然に多い。また教員は、状況のなかでA子が不利になるようなストーリーを不自然なまでにつくりあげて「指導」を行っている。このように教員による迫害は、「教育」「指導」という名目をつければ、ターゲットとなる生徒に対して不利益扱いをできる裁量の幅が著しく広くなる教員の職務構造に支えられている。特にA子のように進学を重視する生徒ほど、入試の調査書(内申書)制度によって生殺与奪の権を握っているという脅しをかけるのが容易になる。

 本件が典型を示す非人道的な心理ー社会的な様態は、生徒を閉鎖的な生活空間にとじ込め、個人が自由に対人距離を調節できないように強制的に密着させる、過度の共同体主義を採用する現行の学校制度によって促進されている(内藤 2001, 2009, 2016)。

 …上記のような特殊な閉鎖空間で集団生活さえしなければ、被害者は亡くなるはずもなかったし、加害者はこれほど残酷になりえなかったといえるので、そのような有害環境を設定し、人々に強制した国や自治体の責任(有害環境設定強制責任)を考えることができる(内藤 2018(b))。

《文献》

中井久夫 2018, 『中井久夫集6 いじめの政治学みすず書房
内藤朝雄 2001, 『いじめの社会理論』柏書房
内藤朝雄 2009, 『いじめの構造』講談社現代新書
内藤朝雄 2016, 「学校の秩序分析から社会の原理論へ――暴力の進化理論・いじめというモデル現象・理論的ブレークスルー」『岩波講座 現代』第8巻、岩波書店
内藤朝雄 2018(b), 「いじめ・学校・全体主義、そして有害閉鎖空間設定責任」日本司法書士連合会
https://www.shiho-shoshi.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/201809_02.pdf
取手市立中学校の生徒の自殺事案に係る調査委員会 2019, 『調査報告書』
https://www.pref.ibaraki.jp/kikaku/seisaku/tyosei/toridechosaiinkai.html 

 (当該拙稿https://www.eidell.co.jp/books/?p=10750
「学校における閉鎖空間の問題――取手市中3生徒自殺事件から普遍的な問題を考える――」『季刊 教育法』No.202:65ページ)

 

以上はサワリの紹介でした。
詳しくは本論考を入手のうえ、ご笑覧ください。

 

 

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